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2025.10.17
試用期間のルールを徹底解説!解雇・待遇でトラブルを避けるために企業が押さえるべき重要ポイント

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試用期間のルールを徹底解説!解雇・待遇でトラブルを避けるために企業が押さえるべき重要ポイント

新しく従業員を採用する際、「試用期間」を設ける企業は多いでしょう。これは、履歴書や面接だけでは判断しきれない労働者の能力や適性、勤務態度を、実際の業務を通じて見極めるための大切な期間です。

しかし、この試用期間について、「仮採用だからいつでも自由に解雇できる」「本採用後とは待遇が違って当然」といった誤解から、思わぬ労務トラブルに発展し、訴訟で会社側が敗訴するケースも少なくありません。

試用期間中であっても、すでに労働者との間で雇用契約は成立しています。したがって、事業者は労働基準法をはじめとする法律上のルールを正しく理解し、慎重に対応する必要があります。

この記事では、試用期間に関して企業が押さえるべき法律上のルール、給与・社会保険の扱い、そして特にリスクが高い「解雇」や「本採用拒否」の注意点を、専門家の知見に基づき徹底的に解説します。

1. 試用期間の正しい定義と法的根拠 — 長すぎる期間は無効になるリスク

試用期間とは、適性を見極めるための期間であり、法律上の定義はない

試用期間とは、事業者が労働者を採用した際、実際の勤務を通じてその労働者の適性などを見極め、本採用するかどうかを判断するために設ける期間を指します。正社員採用にあたり試用期間を設けた場合、労働者とはすでに期間の定めのない雇用契約(解約権留保付労働契約)が締結された状態です。

試用期間について、労働基準法やその他の法律による明確な定義やルールはなく、各企業が雇用契約書や就業規則によって独自に設定できます。試用期間を設けること自体が義務付けられているわけでもありません。

詳細:期間の長さは「合理的範囲」を超えないように注意

多くの企業では試用期間を3か月から6か月程度に設定していますが、期間の上限についても労働基準法等による定めはありません。

しかし、試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれているため、労働能力や勤務態度を判断するのに必要な合理的範囲を超えて長期間を設定することは、民法第90条の公序良俗違反にあたり、無効とされる場合があります。

2. 試用期間中の待遇ルール — 給与、有給休暇、社会保険の義務

試用期間中も労働者としての権利が発生する

試用期間中の労働者の待遇は、労働基準法や最低賃金法などに反しない限り、企業と労働者との合意により決めることができます。あらかじめ合意があれば、本採用後の労働条件と差をつけることも可能です。

給与:最低賃金を下回る設定や無給は違法 労働契約に基づくため、無給(見習い期間)とすることはできません。ただし、求人票等で明示し合意を得ていれば、本採用後の給与額より低く設定することは可能です。その場合でも、最低賃金を下回らないよう注意が必要です。

賞与:就業規則の定めが重要 法律による支給義務はないため、就業規則や賃金規程において試用期間中の労働者に支給しないことを明示している場合は、支給しなくても問題ありません。

残業代:本採用後と同様に支払い義務あり 36協定の締結・届出があれば時間外労働をさせることができ、残業させた場合は、割増賃金にあたる部分を含め、必ず残業代を支給する必要があります。

有給休暇:試用期間も勤続期間に含まれる 雇入れの日(試用期間開始日)から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、試用期間中であっても有給休暇を付与する必要があります。

社会保険:加入義務は入社初日から発生 労働者が加入義務の要件を満たしていれば、試用期間中であっても、雇用保険、健康保険、厚生年金保険の各種社会保険に加入させる義務があります。この義務は雇入れの日に発生し、本採用後に加入させるなどの対応は法令違反となり、追徴金を徴収されるリスクがあります。

3. 試用期間の延長は無制限ではない!合理的な理由と事前規定の重要性

延長の条件は「事前規定」と「合理的な理由」

試用期間中に病気などで勤務日数が少なかったり、勤務態度に問題があり改善が見られない場合など、当初定めた期間内に労働者の適性を判断できないこともあります。このような場合、試用期間を延長することも可能です。

ただし、無条件に延長できるわけではありません。
就業規則や雇用契約書への明記が原則 延長するためには、原則として就業規則や雇用契約書に、延長の可能性があること、延長の事由(どのような場合に延長するか)、延長の期間、回数などをあらかじめ規定しておく必要があります。

合理的な理由が必要 規定があっても、延長には合理的な理由が必要です。例えば、病気休業による就業日数の不足や、就業状況に問題があるものの改善の可能性を考慮して猶予を与える場合などが該当します。延長に合理的な理由がないと判断された場合、延長が無効になる可能性があります。

また、当初の試用期間と延長期間を合わせて1年を超えるなど、期間が長すぎると公序良俗違反で無効になるリスクがあるため、避けるべきです。

4. 試用期間中の解雇のリスク管理 — 「14日以内ならOK」という誤解を解消

解雇のハードルは下がるが、無制限ではない

試用期間中の労働者の解雇は、本採用後の解雇よりも広い範囲で認められるとされています(最高裁判所判決昭和48年12月12日・三菱樹脂事件)。しかし、無制限に自由に解雇できるわけではありません。

試用期間中の解雇であっても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇は無効とされます(労働契約法第16条)。また、試用期間の途中での解雇については、通常の解雇よりも「より一層高度の合理性と相当性」が求められるとする裁判例もあるため(東京地方裁判所判決平成21年1月30日・ニュース証券事件)、特に慎重な対応が必要です。

詳細:14日以内の解雇に関する労働基準法のルールと注意点

解雇を行う場合、原則として30日前に解雇を予告するか、予告しない場合は30日分の解雇予告手当を支払うことが義務づけられています(労働基準法20条1項)。

このルールの例外として、入社後14日以内の試用期間中の従業員の解雇については、この30日前の予告が不要とされています(労働基準法第21条4号)。

しかし、これは「14日以内であれば問題なく解雇できる」という意味ではありません。たとえ14日以内の解雇であっても、解雇の理由が客観的に合理的でなく、社会通念上相当でないと判断されれば、その解雇は無効となります(労働契約法第16条)。解雇を検討する際は、試用期間中であっても、事前に必ず弁護士へ相談し、リスクを適切に管理することが重要です。

5. 試用期間満了時の本採用拒否(解雇)が認められる条件

本採用拒否も「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」が必要

試用期間が満了した際、雇用契約を終了して本採用しないことを「本採用拒否」または「本採用見送り」といいます。

本採用拒否についても、通常の労働者の解雇よりも広い範囲で認められます(最高裁判所判決昭和48年12月12日・三菱樹脂事件)。しかし、これも無制限ではなく、「客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」にのみ許されるとされています。

本採用拒否が無効と判断された判例も少なくありません。安易に本採用拒否を行うと、労働者との間でトラブルに発展する恐れがあるため、慎重に検討する必要があります。

具体的には、以下のような客観的・具体的な事実が必要です。

有効と判断されやすい例:

重要な経歴の詐称が発覚した。

無断欠勤や遅刻を繰り返し、指導や注意をしても改善が見られない。

業務遂行能力が著しく低く、指導を行っても改善の見込みがないことが客観的な記録で示せる。

無効と判断されやすい例:

「上司との相性が悪い」といった主観的な理由。

能力不足を指摘するものの、具体的な指導や改善の機会を与えていない。

採用時に期待した能力に達していないが、その基準が抽象的で客観性に欠ける。

試用期間に関するトラブルは、専門家へのご相談を推奨します
試用期間中の解雇や本採用拒否は、本採用後よりも広く認められるとはいえ、ルールを逸脱すれば不当解雇として訴訟に発展し、会社側が多額の金銭支払いを命じられるリスクがあります。

労働者とのトラブルを未然に防ぐためには、試用期間の設定段階で、求人票や就業規則、雇用契約書に適切な規定を設けることが非常に重要です。

また、従業員の解雇や本採用拒否を検討される際は、その従業員が試用期間中であっても、リスクを大幅に減らすためにも、できるだけ早い段階で事前に専門家にご相談いただくことを強くおすすめします。

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